小島動物病院AWC院長の小嶋です。PCAPとはPathology Centered Animal Practiceの略語で、‘病理学を中心にした動物の診療’です。ここでは動物の病理学に関わることを記載しています。2021年のテーマは‘超三流になる’です。もう一度、足元を見つめて、身近な病気を再度確認すること、所見をしっかり取ることをして、病理と臨床の事やそれに近しいことをまとめています。プラスαでは病理と日々の生活を結び付けて、少しだけアートなことをしたいです。その4は肝細胞癌です。どうぶつPathoアートはHE染色グルーミング室です。

肝細胞癌(消化器、腫瘍、病理の視点から)
概要: 基本的に動物の原発性肝臓腫瘍は稀であり、実際は肝臓以外からの転移が多いとされています。

肝臓原発腫瘍は肝細胞由来、胆管由来、神経内分泌由来、間葉由来の4つに分けられ、その増殖パターンから単一の葉に出来る塊状のものと複数の肝葉にまたがる結節型や全ての肝葉に至る浸潤型に分けられ、予後がだいぶ異なります。また肝細胞に由来する増殖性疾患では高齢犬で結節性過形成が多く発症しますが、組織学的に肝細胞癌も高分化のことが多く、困惑することがあります。

自験例では手術の可否を決定するために細胞診だけで鑑別を求められることが多く、間違って、経過が良くて獣医師としてちょっと恥ずかしさを感じることがありますので、よくよく飼い主様には事前に言い訳をさせてもらっています(皆さますぐにお忘れになっていますが)。

肝細胞癌の症例ではその症状は非特異的で食欲不振、体重減少、嘔吐などです。血液検査で肝数値の上昇を示し、画像検査で比較的容易に認識できます。当院では所持していませんが、CT検査は進行度評価や手術計画に大変有用であることが知られています。治療法は基本的には外科手術ですが、塊状型で左葉系のものは外科手術を積極的に行えます。いっぽうで、右葉系に発生した場合や浸潤傾向が強いタイプでは後大静脈との関連性や血管浸潤との関連性から手術には十分な術前見当が必要と思います。また胆管腫瘍は猫で多く発生しますが、良性の場合は巨大化して、隣接臓器を圧迫するまで臨床兆候を示さないことが多く、発見段階でだいぶ進行していることが多いと感じています。

所見(犬の肝細胞癌):核小体明瞭な円形核を中央に配し、豊富な好酸性細胞質を有する肝細胞由来細胞が索状、シート状に充実性している。腫瘍内には時折、豊富な赤血球を容れる嚢胞が形成されている。腫瘍細胞は細胞質が一部空胞状を呈し、強い異型性を有する。核分裂像や2~複数核を有する細胞が散見される。腫瘍では広範な出血と壊死を認める。参考コメント:肝細胞癌は高分化であることが多く、良性腫瘍との鑑別が難しいことも多いとされています。

どうぶつPathoアート:今月のどうぶつPathoアートは当院のグルーミング室です。グルーミングは動物をシャンプーしたり、カットしたりしてキレイにする仕事です。今年の2月に当院ではグルーミングを一週間お休し、改修工事を行いました。テーマはグルーミングとスキンケアと病理の融合ということで、グルーミング室をHE染色にしました。部屋を核の色である紫にし、そこに細胞質のピンクのグルーマーさんがお仕事をしています。当院のグルーマーさんは皆、病理への理解も示してくれて一緒に病気を見てくれます。飼い主様からの信頼も厚く、診療に欠かせないパートナーです。これからもよろしくね。

 

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